眼科の病気の中でも「近視」は多くの方が聞かれたことがある疾患だと思います。私たちの目(眼球)が正しい形(長さ)の時には、目の中に入ってくる光の情報はそれを受け取る網膜の上でピントを合わせることができ、ものははっきりと見えます。しかし、近年眼球の形が前後方向に長く伸びる人の割合が増え(眼軸長の伸展)、このために近くのものははっきり見えても遠くのほうがぼやけてしまう人が増えているのです(近視人口の増加)。眼軸長の伸展は成長に伴って起きることが多いため、低年齢の頃に伸長量が大きいこともわかっています。
近視人口の増加は世界的にも問題になっています。2000年には世界の近視人口は13億人でしたが、2050年には49億人に増加すると予想されていて、およそ世界の2人に1人は近視に対して何らかの対応が必要になる時代が訪れると考えられています。日本でも文科省による近視実態調査で、小児の裸眼視力1.0以上の割合が、小学1年生で約80%、中学生では約40%に低下していることが報告されています。近視の程度が強くなるとそれに比例して白内障、緑内障、網膜剥離など目の病気を発症しやすくなることが知られており、近視が将来の病気のリスクとなることも大きな問題となっています。
世界の近視研究者が設立した The International Myopia Institute(IMI) がまとめた白書によると、近視の環境危険因子としては、教育、屋外活動、近業、スクリーンタイム(パソコン・タブレット端末・ゲーム機器・スマートフォンなどの画面を見ている時間)、両親の近視の有無が掲げられました。
が近視の進行と関連していると報告されています。将来的にも目の健康を守るために、幼少期よりの本人だけではなく周りの方やその環境も含めた継続的な対策が必要な時代となっています。
一度発症してしまった近視を「治す」ことはとても難しく、私たちの目標は「進行抑制」にとどまっているのが現状です。しかし、早い段階から継続していただくほどその効果が大きいこともわかっています。近視進行抑制方法としては、下記のようなものがあります。
屋外活動が近視の発症や進行に対して抑制的な効果を示すことは、すでに多くの報告があります。文部科学省「子どもたちの目を守るために」では
を推奨しています。
近業作業についても「子どもたちの目を守る」では
ということを推奨しています。
眼鏡の中には、DIMS(Defocus Incorporated Multiple Segments)レンズ、HAL(Highly Aspherical Lenslet)レンズ、DOT(Diffusion Optics Technology)レンズと呼ばれる特殊デザイン眼鏡があり、その装用による近視進行抑制効果と眼軸長伸長抑制効果が確認されています。
低濃度アトロピン点眼には近視抑制効果が確認されています。日本では現在0.025%アトロピン点眼液が近視進行抑制治療薬として承認されています。しかしこの点眼治療には、副作用として羞明(まぶしさを強く感じるようになること)や調節力の低下(近くを見るときにピントを合わせにくくなること)が認められることや治療中止によってリバウンドを生じることがわかっています。治療とともに副作用に対しての対応が必要になる場合があることや、長期にわたっての継続が不可欠であることを十分理解いただいた上で、治療を選択していただくことが大切です。
コンタクトレンズに関しては、オルソケラトロジー(OK)と呼ばれる治療方法で使用するハードコンタクトレンズ(HCL)と多焦点ソフトコンタクトレンズ(多焦点SCL)があります。OKは、特殊な形状のHCLを就寝時に使用することで日中の眼鏡装用などを不要にする治療方法です。OKもアトロピン点眼治療と同様に治療中断によるリバウンドが報告されています。多焦点SCLでは、日中の装用を続けることで近視進行の抑制効果が認められた、との報告があります。いずれもコンタクトレンズという異物を長時間目に接触させる方法であり、お子様が使用される際には、その着脱や安全な使用を守っていただくために周りの方による継続的なサポートが必要となります。